Discussion Paper No.1107

Title:ベバリッジ・カーブによる地域間ミスマッチの動向
Authors:風神佐知子

Abstract:

90年代の失業率上昇以降、労働需給のミスマッチは常に人々の高い関心を集めている。本稿では、ミスマッチの中でも地域間ミスマッチに注目する。地域間ミスマッチの解消を妨げる要因の一つとして住宅コストが挙げられるが、大都市では2005、6年頃から家賃の物価は相対的に低くなっている。他方で、2011年には東日本で大地震があり、就業場所の移動を余儀なくされた人々も多い。

日本では、地域別の労働需給のマッチング効率についての研究は存在しても、地域間ミスマッチの大きさを分析した研究は少ない。数少ない先行研究では、全体の求人数に占めるある地域の求人数の割合と全体の求職者数に占めるある地域の求職者数の割合の差をミスマッチ指標として、これを用いて分析されている。本稿では、ベバリッジ・カーブのシフト幅を用いて分析し、さらに、日本の先行研究ではこれまで算出されていない、全体のミスマッチに対する地域間ミスマッチの寄与度を算出する。また、データの制約はあるが、ある地域で災害が起きると地域間ミスマッチは増加するのかについても考察する。

1983~2010年の労働力調査、職業業務安定統計、労働市場年報を用いて分析した。1990年以降では、2007、8年まで地域間ミスマッチは緩やかに上昇し、その後2009、10年にかけて下落していた。2002~2004年の景気回復期以降は、比較分析した年齢間ミスマッチや職業間ミスマッチで上昇幅が大きくなっていた。しかしながら、寄与度をみてみると、1994~1996年の景気回復期以降、ほぼ一貫して地域間ミスマッチは増加傾向にあった。また毎月勤労統計の地方版、一般職業紹介の求人数、厚生労働省の各県労働局のHP のデータを用いて、2011年の震災前後で月別に地域間ミスマッチを推計すると、2010年のピーク時のミスマッチに対し、2011年のピーク時のミスマッチは約2.79倍に上昇していた。