経済研究所研究叢書第18輯「日中経済発展の計量分析」

3月25日に発行しました。

要旨:

本書は、日本と中国が東アジア地域のなかで、貿易や直接投資を通じてどのように結びついているか、エネルギー政策や地球環境問題がどうなっているか、中国が地域経済の発展に伴う諸課題にどう対応しているか、についての研究をまとめたものである。
 本書は3部から構成される。第1部「中国経済発展と貿易・直接投資」は、中国の経済発展を考える上でその役割が大きい直接投資や対外貿易に関する次の4つの論文から構成される。ここでは日本と中国の関係を念頭に分析を行っている。第 1 章「日本と中国の貿易依存と貿易構造」(木下宗七)では、改革開放以来今日まで高度成長を続ける中国とバブル崩壊以降低成長と長期的なデフレションで低迷する日本の貿易依存度と貿易構造の変化について検討している。円高を背景として直接投資が進み、産業内分業構造が深化していることを示す。


第 2 章「中国の経済発展と日系企業の現地生産」 (山田光男)では、中国の経済発展が東部沿海地域を中心に進み、外資企業の役割が重要で会ったことを示した。特に日本の中国への直接投資の貢献を検討するため、中国の産業連関表を用いて日本の外資企業の生産活動を明示し、日系企業の国内最終財生産や輸出による中国の各産業の付加価値貢献度を求めた。


第 3 章「日本企業の海外進出について―愛知県の輸送機械産業を中心として―」(木下宗七) では、日本企業の海外進出について取り上げる。日本企業の対外直接投資の特徴を検討し、その後、愛知県の輸送機械産業を中心に中国、アジアとアメリカに企業グループが進出する態様と、雇用の変化について検討する。


第 4 章「外資系企業の経営現地化の効果と要因分析」(朱晋偉)では、中国の長江デルタ地域になかで特に外資系企業が集中している無錫市、蘇州市で行ったアンケート調査によるデータを用いて、Treatment Effects ModelやOrdered Probit Model/Probit Modelにより経営の現地化がどのような条件でなされるのか、また現地化された企業の業績に差があるのかを労働生産性や売上高の違いで評価しようとするものである。



第 2 部「中国地域経済発展の諸課題」では、中国国内ないし経済発展の著しい長江デルタ経済地域における雇用、外食サービス、エネルギー・環境に関わる分析をする次の4つの章からなる。


第 5 章「出稼ぎ労働者の就業選択-教育は出稼ぎ労働者を地元に留めさせることができるか?-」(朱宏飛、何立新、叢中華)では、中国の農村部から都市部への出稼ぎ労働者の問題を取り上げている。CHIP2002のデータベースを用いて、職業選択に関する多項ロジットモデルにより、出稼ぎ労働者の職業選択に影響する要因分析を行っている。


第 6 章「外食産業の発展要因と課題」(章家清)では、中国の経済発展にともなう消費者の食の需要行動の変化を取り上げている。食の多様化と外食化、外食産業の発展の要因について無錫市・南京市・上海市から得た住民に対するアンケート調査から検討するものである。


第 7 章「江蘇省における新エネルギー産業-知的財産権と政策の影響」 (成十)では、中国江蘇省のエネルギー問題を取り上げる。江蘇省はエネルギー消費量や輸入が多く、経済発展とエネルギー・環境の両立が強く求められている地域のひとつとなっている。新エネルギー産業の発展が最重要課題のひとつであるという視点から、新エネルギー産業の知的財産所有権に関する政策提言を行っている。


第 8 章「LMDI模型による工業部門炭素排出影響要因に関する研究窶披€薄ウ錫の例」 (申暁敏、武戈)では、近年経済発展の著しい中国東部沿海部の江蘇省無錫市の工業部門の発展と二酸化炭素排出量の関係を分析する。ここでは、LMDIモデルによる炭素排出量の要因分解を行った。



第 3 部「東アジアと日中経済」は、東アジアという枠の中で日本・中国の経済を捉える。ここでは、マクロ経済政策、観光需要、エネルギー・環境問題を扱うつぎの4つの章から構成される。


第 9 章「中国経済の政策シミュレーション分析-国際的波及を中心とした事例研究-」(尾崎タイヨ)では、日本、中国、韓国および米国を貿易で繋ぐマクロリンク計量モデルを用いて、中国の為替政策や財政政策の自国、および隣国に与える影響についてシミュレーション分析を行うものである。


第 10 章「日中韓の観光需要の弾力性分析」(宮崎佑一・根本二郎)では、アジア地域においてひとつの重要な産業となっている観光産業に注目し、日本、中国、韓国からアジア7カ国への観光消費の弾力性をAIDSモデルによって推定し、そこから観光政策のインプリケーションを読み取るものである。


第 11 章「北東アジアのエネルギー・経済」 (内田光穂) では、日本、中国、韓国を中心に北東アジア地域の経済とエネルギー・環境問題について取り上げている。高度経済成長が続く中国ではエネルギー消費の増大が不可避で、その効率的な利用や環境を配慮したエネルギー構成にシフトする必要性などが論じられる。


第 12 章「日中韓の地域連関-中国における省エネ投資のシミュレーション分析」(山田光男)では、近年、貿易や直接投資を通じて相互依存が強くなっている日中韓を対象にエネルギー環境部門を含んだ多地域・多部門計量経済モデルを用いて、日本から中国に電気機械部門の企業がエネルギー利用効率の高い生産シフトを行った時の各国への影響についてシミュレーション分析をする。