9月の経済研究所セミナー

要旨
経済研究所セミナー
 2013年9月21日土曜午後3時より経済学部会議室にて、復旦大学日本研究センター戴暁芙准教授(国際日本文化研究センター外国人研究員)を迎えて「中国の”土地財政”と地方政府のプラットフォームの問題について」の講演をお願いした。
 輸出とインフラ投資に支えられた中国の経済成長が今後も持続するのか否か、日本経済にとっても関心の高いことである。氏によれば中国経済が抱えているリスクは、対外貿易の変化、貨幣与信の膨張、環境問題などの面において高まってきているとされる。
 土地は中国において最大の国有資産であり、近年地方政府が集団土地所有者から土地を収用し、経済開発業者に使用を許可することにより、地方政府の土地関連収入が著しく膨張してきている。具体的には①土地譲渡金、②工業用地使用権譲渡、③不動産産業の発展を通じた税収拡大、④土地を担保とした銀行融資などである。
 地方政府など政府機関は、都市開発のため土地を活用した投資会社を設立し、様々な資金を調達する資金調達プラットフォームを形成し、政府主導の下でインフラ建設や政府投資プロジェクトに活用されていった。これらの資金調達は地価上昇に対する期待に大きく依存しており、この期待が変わるとき金融リスクが表面化する可能性がある。など興味深い話題が提供された。報告後、研究所スタッフ、近隣研究者を交えて熱心な質疑が行われた。
(経済学部教授 山田光男)

"Pension and the Family"

名古屋大学大学院経済学研究科教授
小川 光 氏

要旨
9月26日に開催された経済研究所セミナーでは、名古屋大学大学院教授の小川光氏をお招きして、「Pension and the Family」というタイトルの論文をご報告いただいた。年金制度改革を理論的に分析した先行研究の多くは世代重複モデルを用いているが、そこでは、家計を1人の経済主体のように捉えるUnitary Modelの仮定が置かれている。今回の小川氏の報告では、家計を構成する経済主体(夫と妻)の行動を明示的に考慮し、家計による消費や出生選択が夫婦間の交渉によって決まると考えるCollective Modelの設定を使って、賦課方式の年金制度の規模拡大の効果が検討された。夫婦間の交渉力が各々の生涯所得の相対的な大きさに依存し、さらに妻の方が夫よりも寿命が長いと仮定すると、年金規模の拡大は夫婦間の所得格差への影響を通じて夫婦間の交渉力に影響を与え、さらには家計の出生選択にも影響を与える。本報告では、従来のUnitary Modelのもとで得られた結果は年金制度改革が出生選択に及ぼす効果を過小に評価している可能性があることが示された。少子高齢化に対処するための社会保障(年金)制度改革の効果についてはすでに多くの研究の蓄積があるが、本報告で示された結果は従来の研究を再考する必要があることを示すものであり、その意味でも大変興味深い報告であった。
(経済学部准教授 平澤誠)