11月の経済研究所セミナー

要旨
 この報告は大森達也(本学総合政策学部)氏との共同論文にもとづくものである。ここでは簡単な世代重複モデルに地域間の移動と自然災害のリスクを導入し、それに対して家計が防災行動をとる場合に、災害リスクの上昇が家計の都市と農村の居住分布、そして経済全体の出生率にどのような影響を与えるかについて、公的な防災・減災政策がないケースとあるケースに分けて分析がなされている。
 結論として、まず公的な政策がない場合には、災害発生確率が上昇するとき,定常状態における人口分布はより都市に集積するが、経済全体の出生率は必ずしも減少するとは限らないことが示されている。さらに、公的な防災・減災政策があるかないかに関わらず、パラメータの値によって都市のみに家計が集中する均衡や都市と農村に分散して家計が居住する分散均衡が発生すること、公的な防災・減災政策において定常状態が集中均衡にある場合、災害の発生確率の増加は経済全体の出生率の低下を招く一方で、定常状態が分散均衡にある場合には災害の発生確率によって定常状態がいずれに移動するかについては一意でないことが示されている。加えて公的な防災・減災政策の強化は,定常状態において集中均衡が達成されている時には、経済全体の出生率を増加させること、その一方で定常状態が分散均衡にあるときは,常に出生率を増加させるとは限らないことも示されている。
 主題・手法の両面で新展開となる注目すべき研究であり、他大学からの参加者も含め、時間を大幅に超過する活発な議論が交わされた。
(経済学部教授 近藤健児)