12月の経済研究所セミナー

要旨:
 12月13日午後4時40分より、関西学院大学経済学部から安岡匡也准教授をお招きして、中京大学経済研究所セミナーを開催した。報告された論文は、いわゆる少子高齢化対策に関する内容である。
 少子高齢化によって起きる問題の一つが、年金財源の問題である。少子高齢化によって年金の財源が減少してしまうことを防ぐ対策の一つとして、労働人口を増加させることによって課税ベースを増やし、税収を確保する手段が考えられる。本報告では労働人口増加の対策として女性労働参加率の向上に注目し、そのための政府の対策として、3つの政策を挙げている。第1に育児手当、第2に保育サービス支援、第3に育児休業手当である。本報告ではこれら3つの政策を、理論モデルを使って比較検討している。
 分析の結果、育児手当や保育サービス支援によって労働時間や出生率を増加させることは可能であるが、育児休業手当では労働時間および出生率を増加させることができないことが示された。現実の政策で言うと、雇用保険による育児手当は望ましくない、ということである。セミナーでは、各参加者より、保育サービスや家庭内育児と出生率の関係の定式化や現実の政策との関連等について活発な質疑が行われた。
(経済学部准教授 古川章好)

要旨:
 2010年度に従来の児童手当に代えて子ども手当が創設され,これに伴って2012年度には所得税の年少扶養控除が廃止された.子ども手当の創設と扶養控除の廃止は世帯の予算制約を変化させるため,親の労働供給に影響を与える可能性がある.
 本報告では,「就業構造基本調査」の個票データを用いて,離散選択型の構造モデルを推定し,これらの制度変更が世帯の労働供給と効用に及ぼした影響について検討が行われた.そして,次のような結果が示された. (1)これらの制度変更は父親と母親の労働供給をいずれも減少させ,制度変更に必要な新たな財源額は,労働供給の変化を考慮しないときよりも約18%増加する.(2)これらの制度変更は世帯所得800万円以下の14歳以下の子どものいるすべての世帯の効用を増加させる一方で,世帯所得1200万円以上の世帯の半数以上の効用を減少させる.
精度の高い推定結果と重要な政策的含意を有するきわめて興味深い報告であり,学内外から多くの参加者を集めた.
(12月20日,名古屋キャンパス14号館経済学部会議室)
(経済研究所長 釜田公良)