7月の経済研究所セミナー

要旨:
本学出身である大阪大学経済学研究科博士後期課程1年の斎藤祐樹氏を招いて、「On the Trade, Growth and Welfare Effects of Patent Protection」というタイトルで研究報告していただいた。各国の比較優位性に基づいて「どの最終財をどの国が生産するか」という議論はリカード以来古くから議論されていることであるが、近年、「多段階からなる生産過程のうちどの程度まで海外の企業に任せるべきか」という、いわゆる、offshoringの問題が貿易理論で注目されている。斎藤氏は、このoffshoringの問題を企業の研究開発と関連付けて、政府による知的財産権保護政策が持つ経済成長や社会厚生への効果について検討している。
斎藤氏が導き出した結論は以下の2点に集約される。1点目は、ある国の政府が知財権保護政策を強めると、その国の企業はそれまで以上に多くの生産過程を他国の企業に任せるようになるということである。いま1つの点は、知財権保護政策を強めることで経済成長率を高めることができ、さらに、保護政策が厳しすぎない限りにおいて社会厚生も改善するということである。これらの結果は非常に興味深く、また、斎藤氏が考案したモデルそのものも拡張可能性を許す有用なモデルであることもあり、セミナーでは本学教員や他大学の研究者も含め、活発な議論が交わされた。
(経済学部准教授 都丸善央)

要旨:
いわゆるシグナリング・ゲームの理論において、送り手が複数いる場合に過剰均衡が存在する事実は、良く知られている。この問題を解決するため、多くのゲーム理論家が、もっともらしくない均衡を除外することで均衡のサイズを小さくする方法(リファイント)について研究を進めてきた。
本領氏の報告は、この分野をさらに推し進めんとする、重要な一歩となるものである。その新規性は、バグウェルとラミーによるよく知られたゲームを特殊ケースとして含む、より一般的なシグナリング・ゲームを構築したことにある。その一般枠組みにおいて、バグウェルらの開発した「偏見のない信念」というリファインメントが、より標準的なリファインメントである「戦略的安定性」を必ず包含するが、同様に標準的な「前方帰納法」は必ずしも含まない事を示した。「偏見のない信念」は応用上価値が高く、その一般的な性質を明らかする本研究の価値は大きいと言える。
セミナーでは極めて活発な議論が行われ、報告者と中京大学経済研究所スタッフの間に、刺激的かつ有益な知的相互作用があったように思う。
(7月31日、名古屋キャンパス15号館中会議室)
(経済学部准教授 古川雄一)