10月の経済研究所セミナー

要旨:
沖縄大学・大城淳氏の報告は、大阪大学・佐藤泰裕氏との共同研究である。高度成長期以後の日本では、産業構造の高度化と三大都市圏への人口集中が同時並行的に進んだが、その因果関係を定量的に分析することで、過去40年間の集積の原因を探ることを目的としている。 Desmet and Ross-Hansberg (2013 AER)を多部門に拡張したモデルを用い、簡素な都市システムモデルに、労働供給の歪みを表すlabor wedge、生産性を示すefficiency wedge、そして住み心地と関わりが深いamenityの3つのwedgeを加えることで、42都道府県の観測データを説明し、各wedgeと人口分布の関係について半日仮想シミュレーションを行っている。 その結果、人口分布と密接に関連するのはlabor wedgeであること、したがって戦後の生産性の変化だけでは人口分布の動きを説明できず、労働市場の変化こそが空間構造理解のカギとなることが実証された。 膨大な先行研究の的確な把握と丁寧な定量分析で得られた結果は大変興味深いものがあり、時間を超過しての議論が重ねられた。
(経済学部教授 近藤健児)

要旨:
混合寡占理論を中心とする研究で国際的に活躍されているChonnam National UniversityのLee教授をお招きして、「Free Trade Agreement and Privatization Policy with Excess Burden of Taxation」というタイトルで研究報告をしていただいた。 近年の貿易交渉において、新興国が関税引き下げに応じる一方で、国内規制緩和政策に応じないということをニュースでよく見かける。その背後にはどういったメカニズムがあるのか?自由貿易政策と民営化政策という規制緩和政策との間に横たわる相互関係を調べることによって、そのメカニズムを解明しようとしたのが本報告の目的であった。
Lee教授は、「貿易をする国々のそれぞれに公企業と私企業が存在し、各国は自国の企業に補助金を出す一方で、他国の企業には輸入関税を課す」というモデルを用いて、「もし補助金の財源を調達する際のコストが非常に大きいならば、FTA締結後の民営化はその国の社会厚生を悪化させる」という結論を導き出した。 すなわち、新興国のように法整備や徴税システムが未発達な国にとっては自由貿易に応じても民営化するインセンティブがないのである。
(経済学部准教授 都丸善央)