日付 | 2008年10月28日 |
---|---|
講演者 | 青木 直己氏 |
タイトル | 「江戸の食文化と現代」 |
場所 | 921教室 |
今年度の法学部の学術講演は、和菓子の老舗である株式会社虎屋で虎屋文庫研究主幹・担当部長として、和菓子に関する研究に従事する一方で江戸の食文化を中心に、食を通じた日本の生活文化論的アプローチに取り組み多くの成果を挙げられている青木直己氏を招いて行った。
講演の目的は、現代、「疲弊と混乱の時代」の序幕とも云うべき道を歩んでいる我が国の危機的な状況を打開するための施策を考える材料として、暗黒の長い戦乱の時代をくぐり抜け260年間もの平和と繁栄と安定の時代を謳歌した「江戸時代」の根源を「食文化」を通じて探ろうというものであった。江戸時代という時代が、人口100万人以上の世界第一の近世都市でもあった江戸の街を発展の中核として繁栄していったからこそ、その後に続く明治という時代のめざましい近代的発展を促すことにもなった。そこでは、「こつこつと積み上げていった職人の技を基にした伝統文化の世界」と、それらを有機的・機能的に繋ぎ合わす「巧みな組み合わせの仕組み」と、それらを運用するための「人的資源の尊重と人材の育成と叡知の活用」とが、三位一体となって鞏固なる社会文化や産業経済を支える基盤が形成されていた。さらに、江戸という大都市が、「食のクロスロード」であったという、他者と異文化との交流の「交叉点」であったことに、その発展性の動因があったとする。すなわち、内なる鞏固たる土台と外との積極的な交流、つまり伝統性と革新性とグローバル化との融合、有能な人材の育成と活用と尊重という日本的伝統に立ち返るこそが、疲弊し混乱と混迷を深めている我が国の現状を救う方策の基本理念が示されたように思われる。その意味で、青木氏の講演は、江戸という時代の成功事例の源泉を、「食」という最も日常的で身近な材料から改めて見直すことの意義を教えてくれたものでもあった。
なお、氏の主な著作には、『図説和菓子の今昔』、『幕末下級武士の食日記』や、「近世老舗商家にみる経営の継承」、「羊肝餅と羊羹」、「関東譜代大名領における流通と商人地主」などがある。