戦略的研究について
中京大学戦略的研究とは、中京大学の特徴及び強みを活かした組織的な優れた研究であり、かつ、中京大学が国際レベルでの卓越した研究教育の拠点となり得る学術研究を対象として、本学が認定した研究です。
これまで、中京大学戦略的研究として位置づけられたのは以下の研究事業です。
- スポーツモチベーション共同研究(2019~2020)
事業責任者:種田行男(スポーツ科学部教授)
事業メンバー:荒牧勇(スポーツ科学部教授)、高橋康介(心理学部准教授)、渡邊航平(国際教養学部准教授) - スポーツ・デジタルアーカイブズ共同研究(2019~2020)
事業責任者:佐道明広(総合政策学部教授)
事業メンバー:來田享子(スポーツ科学部教授)・亀井哲也(現代社会学部教授)・長谷川純一(工学部教授)・瀧剛志(工学部教授)・伊藤秀昭(工学部教授)・石堂典秀(スポーツ科学部教授)・渋谷努(国際教養学部教授)・斉藤尚文(現代社会学部教授)・岡部真由美(現代社会学部准教授)・栂正行(国際教養学部教授)・伊東佳那子(体育学研究科実験実習助手)・木村華織(社会科学研究所特任研究員)・高田佳輔(文化科学研究所特任研究員)・掘兼太郎(文化科学研究所特任研究員)・谷岡謙(文化科学研究所特任研究員)・村上隆(中京大学名誉教授) - デジタル・ヒューマニティーズプロジェクト:日本近代古文書自動解読システムの開発(2019~)
事業責任者:山田雅之(工学部教授)
事業メンバー:目加田慶人(工学部教授)・鈴木哲造(法学部講師)・東山京子(社会科学研究所研究員)・長谷川純一(人工知能高等研究所名誉所長/特任研究員)・檜山幸夫(社会科学研究所名誉所長/特任研究員/中京大学名誉教授) - 人間・AIロボット共進化プロジェクト(2021~)
事業責任者:橋本学(工学部教授)
事業メンバー:青木公也(工学部教授)・秋月秀一(工学部助教)
スポーツモチベーション共同研究
超高齢社会を迎え、健康寿命やQOLが社会問題となる中で、大規模な制度整備を必要とする医療・介護福祉などに加え、健康増進やQOL向上のために低コストで個人が主体的に関与できる活動としてのスポーツが注目されている。スポーツ基本法(2011年施行)では「幸福で豊かな生活を営む」、「健全な心と身体を培い、豊かな人間性を育む」ことが基本理念の中に掲げられている。スポーツ庁(2015年設置)は「一億総スポーツ社会」を掲げ、成人の週1回以上のスポーツ参加率を現状の42.5%から65%まで向上させるという具体的な数値目標を打ち出している。スポーツ参加率向上や習慣化は個人の健康やQOLの問題であると同時に、社会の問題でもある。スポーツ習慣化を推進する上で、例えば運動習慣は生活習慣病や認知症予防に有効であるといった、スポーツ全般の効果に関する学術的エビデンスは徐々に蓄積されつつある。一方で個人に注目すれば、スポーツをやる、やらない理由は「体力維持」から「面倒くさい」、「嫌い」まで、心身の両面にわたる(2016年度スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査」より)。誰もが楽しく長く気軽にスポーツに参加できる土壌を作るためには、個人の身体的・心理的特性を踏まえたスポーツ種目の選択(適性のあるスポーツ種目選択)やスポーツ行動ステージに応じた動機づけが必須であり、またこれを可能にする学術的研究を進めることが極めて重要である。
スポーツ習慣化に関わる運動・認知・心理機能の簡易定量手法
神経筋生理学および認知心理学の手法を用いて、スポーツ習慣化に関連する身体的・心理的指標(中京スポーツインデクス=中京SI)、それらを低コストで簡易的に計測する手法を探索、検証、確立する。研究総括を種田(スポーツ科学部)、神経筋生理学的研究を渡邊(国際教養学部)、認知心理学的研究を高橋(心理学部)にて実施する。
スポーツ嫌いメカニズムの解明とスポーツ行動ステージに応じた動機づけ手法の確立
スポーツを敬遠する要因は実に多様である。神経筋生理学、認知心理学の両側面からスポーツ嫌いのメカニズムについての基礎研究を行い、個人のスポーツ行動ステージに応じた動機づけ手法(中京スポーツモチベーション=中京SM)を確立する。研究総括を種田(スポーツ科学部)、神経筋生理学的研究を渡邊(国際教養学部)、認知心理学的研究を高橋(心理学部)にて実施する。
適正種目を低コストで探索するスポーツレコメンデーション手法の確立
学生、アスリート、高齢者を対象とし、中京SIにより定量化される身体的・心理的指標と適正種目の関係を明らかにする。この結果にもとづき身体、認知の両面からの適正種目探索手法(中京スポーツレコメンデーション=中京SR)を確立する。また現在アスリートの脳構造画像を多数有しており、この資産を活用して脳構造画像と競技種目の関係を明らかにことで、より精度の高い適正種目レコメンデーションを目指すことも視野に入れている。研究総括を種田(スポーツ科学部)、脳科学的研究を荒牧(スポーツ科学部)、神経筋生理学的研究を渡邊(国際教養学部)、認知心理学的研究を高橋(心理学部)にて実施する。
スポーツ習慣化の効果とその個人差の縦断研究の土台となるスポーツパフォーマンスデータベースの構築
全学規模で中京SIにより定量化した身体的・心理的指標、スポーツ習慣と学業成績、大学生活の充実度、QOLなどを関連付けた大規模データベース(中京スポーツパフォーマンスデータベース=中京SPD)を整備する。研究総括を種田(スポーツ科学部)とし、システム構築のため共同研究の幅を広げていく。
スポーツ・デジタルアーカイブズ共同研究
現在、スポーツ庁において、スポーツ関連資料を身体に関わる文化財の一種(以下、スポーツ文化財)と捉え、これを保存・公開・活用するためのデジタル・アーカイブ化が検討されている。本学で「スポーツ・デジタルアーカイブズ共同研究」を提案しているメンバーは、スポーツ庁における上記検討会議の委員として参加し、国内全体の状況を見通した課題を理解することができている。そこでの理解にもとづけば、スポーツ・デジタルアーカイブズの課題には、大別して3つのポイントがある。
(1)既存資料のデジタルアーカイブ化
スポーツに関わる資料には、文書・モノ・映像/画像の他、パフォーマンス向上をめざした研究等によって副産物的に蓄積されることになった身体データなどがある。測定器機や自然科学系の研究手法の発展により、これらはますます多様化する傾向にある。個人の身体から得られた多様な動的データは、どの範囲まで身体に関わる個人情報であり、どの範囲までが共有可能な文化財として取り扱うことができるのか。この疑問に答えるための枠組みづくりは未着手の領域である。
この現状を踏まえながら、スポーツ文化財のメタ・データを確定し、利活用場面を想定した上で、上述のスポーツ庁における委員会は、2020年を目処に、アーカイブ化に関する一定の方針を示すことをめざしている。しかし、同委員会はオリンピック・パラリンピック課が担当していることから、方針の妥当性を検証する2020年以降のプロセスは、研究者あるいは研究機関が引継ぐことになる。引き継がれた検証は、モデル的に作成されたアーカイブズを運用しながら行う研究として実施される必要がある。
さらに、既存の資料だけでなく、スポーツという身体活動を文化財として捉えた場合、新たにアーカイブズ化をめざすべき静的・動的資料を探索する研究はほぼ未着手である。
(2)モデル的場面におけるアーカイブズの利活用の検証と新たな利活用シーンの創出
上記(1)に示したデジタルアーカイブズがどのように利活用され得るかについての検証は、アーカイブ化と同時進行的に実施されることが不可欠な研究である。この検証がなければ、人的・財的な資源を投じてアーカイブズを構築したとしても、「絵に描いた餅」に終始する可能性がある。
利活用場面の柱は、少なくとも①教育、②共有(展示)、③研究の3本を想定することが可能である。したがって、教育プログラムの作成、新たな展示手法の開発を含む市民一般との共有方法、研究データとしての応用の三者をモデル的に実施することによって、新たな利活用方法を研究し、アーカイブ化のプロセスにフィードバックすることが必要である。
(3)既存のスポーツ博物館等のアーカイブズとのネットワーク構築と多様なアーカイブズデータの収集管理スキームの構築
スポーツ文化財は、従来の文化財のデジタルアーカイブズの枠組みでは捉えきれない性格を有している。既存の博物館とのネットワーク構築がスポーツ庁における議論の重要課題のひとつとしてあげられた背景にも、このスポーツ文化財特有の性格がある。第一に、スポーツ文化財は、既存の博物館等において収集保管されているだけでなく、民間レベルでの保有率が非常に高い点に特徴がある。第二に、他の文化財に比べ、形状・用途・素材等が多種多様であり、人・モノ・組織・大会等、様々なカテゴリーで捉えることができる点に特徴がある。これらの特徴があるために、ひとつひとつの資料の価値づけが難しく、それゆえに民間保有のスポーツ文化財は常に散逸の危機にさらされている(たとえば過去の選手が獲得したメダルが劣化してよくわからないモノになってしまっている、大会のスポーツ史的な位置づけが所有者である一般市民には理解されていない場合がある、など)。これら民間保有の資料情報を収集管理し、散逸を防止するためにどのような手立てをとるべきなのかを検討する取り組みは、緒についたばかりである。
この検討を行うために、まずは既存の博物館のアーカイブズ(最低でも収蔵品リスト)を接続するネットワークを構築し、利活用の利便性を高めることを通じ、民間保有の情報が提供されやすい仕組みにしていく必要がある。この研究は、スポーツアーカイブズの持続可能性を検討する、長期的視点を要する研究として実施される必要がある。
以上の3つの課題は、大学スポーツミュージアムを研究拠点とし、従来は事業として位置づけられてきた側面もある「展示」を研究の場へと転換させることによってはじめて、研究デザインが完成し、研究を深化/進化させることが可能になる。博物館機能を有する施設を大学内に設置した事例は、外部から見れば、教育および研究成果の公表の場としての側面が目につきやすい。しかし、上述のとおり、中京大学先端共同研究機構に提出されている「スポーツ・デジタルアーカイブズ共同研究」は、「展示」を研究の場として捉える新たな発想を含みこんだものである。この発想の研究的価値は、「スポーツ・デジタルアーカイブズ共同研究」を提案したメンバーによるこれまでの研究が、科学研究費基盤研究(A)の研究として評価されていることにも示されている。
デジタル・ヒューマニティーズプロジェクト:日本近代公文書自動解読システムの開発
1.学術的位置づけ・目的
デジタル・ヒューマニティーズ(digital humanities)とは、人文科学と情報科学を横断する学術領域であり、従来の文系・理系という枠組みを取り払った新しい分野の学問として世界中に拡がりつつある。本研究プロジェクトは、デジタル・ヒューマニティ―ズにおいて、学術的独自性を有する挑戦的試みの一つである。具体的には、日本近代公文書のほぼ全てが体系的に残されている雛形的存在とでもいうべき台湾総督府文書の「台湾総督府公文類纂」を題材に、日本の近代公文書の自動解読システム開発を目指したものであり,これを中京大学社会科学研究所、人工知能高等研究所、および公立はこだて未来大学が共同して行う。
2.背景・意義
現在、各行政機関等が保管している公文書の中の戦前期の文書の多くは、近世古文書の流れを汲む近代古文書のため一般行政職員が解読するのは容易ではない。そこに、近年の活字離れの進行により将来的には多くの公文記録が死蔵状態に陥る可能性すらある。一方、現在の我が国外交に大きな影響を及ぼしている歴史認識問題の一つに、歴史的事実に対する錯誤があり、その原因の一つに歴史史料を正確に理解出来ていない点が指摘されており、如何に公文書史料を手軽に読めるようにするかが課題となっている。事実、その実情は、台湾総督府文書の利用状況から見ることが出来る。台湾総督府文書は、中京大学社会科学研究所が三十数年にわたって文書を一般に利用できるようにするため、文書目録の編纂とデジタルデーター化、文書史料情報のメタデーターの提供とを行ってきたが、台湾人若手研究者の原文書の利用状況は決して多くはない。その原因の一つが、日本の古文書で書かれた原史料を容易に読むことが出来ないということにある。したがって、歴史的公文書ともなっている近代公文書を広く一般の国民が利用できるようにするとともに、多くの外国人研究者にも利用できるようにするため、手書き文字の自動翻訳システムの開発は喫緊の課題となっている。
3.計画・準備状況
自動解読システムを開発するためには、(a)近代公文書に現れる文字や語句、および、それらの手書き文字に関するデータを収集する必要がある。また、(b)文書の画像から手書き文字のみを自動検出する文字切り出し技術や手書き文字の自動認識技術など、文書認識に関する各種要素技術を開発する必要である。本研究プロジェクトでは、2019年度末までに、 台湾総督府文書群からサンプリングした約1,800ページを翻刻し、約36万の手書き文字のデータを収集する見込みである。また、ディープラーニングを用いた文字切り出し技術と文字認識技術を開発し、その成果は既に学会等で発表している。これら技術をベースとした自動解読システムの精度は現時点では85%である(なお、認識結果の第5候補までに正解が含まれる割合は92%である)。2020年度以降3年~5年以内には、トータル5,000ページを翻刻して手書き文字のデータを100万文字分まで拡大するとともに、要素技術を改良して精度95%以上の自動解読システムの開発を目指す。
(左)台湾総督府文書の簿冊。全体で約1万3千簿冊ある。(右)台湾総督府文書の多くは手書きであり、字体・字形も年代、筆記者により異なる。
自動解読システムは、まず、入力された文書画像(左)に対して文字切り出し処理を行い、個々の文字の領域を見つける(中)。次に、個々の文字領域に対すて文字認識を行い、その結果を表示する(右)。図中①、②は認識に失敗した手書き文字の例を示している。
人間・AIロボット共進化プロジェクト
準備中